「銀河鉄道と~End of Summer Season~」作 揚村 甜記(鏡読み)

 

―――――――

キャスト

沢見(サワミ)……主人公、フリーター

加村(カムラ)……高校六年生、カムパネルラ

愁咲(シュウザキ)……雑誌の編集員

 

――――――

備考(場合によっては使わなくても可)

男の子……脇役、沢見の過去の産物

女の子……脇役、沢見の過去の産物

――――――

オープニング

沢見、加村、愁崎の三人の役者が舞台に立っている。

 

愁咲 空には満天の星、ほら天の川が綺麗に見える。

加村 海には満点の星、ほら白鳥座がゆらゆらゆれて見える。

沢見 そして、目の前には一両の列車。ほら、赤く小さな窓には旅人達が写っている。

 

汽笛

 

愁咲 そして、車掌は旅人から切符を切りとる。

加村 新たな旅人は切り取られた切符と共に乗り込み

沢見 また、切符の切れたものはその星で降りて行く。

加村 置いていかれた者は、ただ当ても無くさまよい

愁咲 うらやむように離れたところで列車を眺める。

沢見 列車は彼らを置き去りにして今日もまた別の星へと旅立つ。

   僕の切符と彼女の切符は一枚ずつ切り落とされていく。

 

汽笛

スポットが二つに

中には沢見と加村

 

沢見 あれは夏のそれでも比較的涼しい夜だった。

加村 あれは夏のそれでも比較的涼しい夜だった。

沢見 僕はその日も海で星を見ていた。

加村 私はこの町に帰ってきて初めて海に出向いた。

沢見 ただ、ひたすらに暗いだけで、何も無い、いやそうは言わせない。

   満点の星空と満点の星空が写った海に何も無いという言葉はふさわしい言葉ではないだろ

う。

加村 ただ、ひたすらに暗いだけで、何も無い。いやそうは言えない。

   都会には決して無い夜景と昔の思い出があるこの場所に何も無いという言葉はふさわしくないだろう。   

沢見 僕はこの場所が好きだ。

   いやなことを全部忘れるわけではないが落ち着く。

加村 私はこの場所を覚えている。

   いやなことも、つらいことも、もちろん楽しいことも。

沢見 僕の切符は

加村 私の切符は

二人 一枚ずつ切り落とされていった。  

 

暗転

 

SE「波の音」

夜の海、防波堤。

空には満点の星、そして海面にも星が写っている。

沢見はここで一人釣りをしながら天体観測をしている。

 

沢見 ……ふう、落ち着く。

 

波の音

 

沢見 なんだがこうやってると、無性に鼻歌が歌いたくなるんだよな

 

沢見鼻歌を歌ってみる。

ちょっと古くさいヒットナンバー

 

沢見 …………(歌う)

 

仕舞いには口ずさむ

 

沢見 ほんの、小さな出来事に~♪(以下、ワンフレーズぐらい歌う)

 

その歌につられたのか加村がやってくる。

 

沢見 真冬の空の下に~♪

加村 あの?釣れますか?(心持弱めに)

沢見(ビク)うわあああぁぁぁ、ゆ、幽霊?!

加村 違います

沢見 へ?ああ、幽霊じゃない……それはどうも失礼いたしました。

加村 ふふ、面白い方ですね確かに私は肌が白いほうですけど、初対面の方に幽霊といわれたのは初めてですよ

沢見 ……すみません。

加村 ツケておきます

沢見 いきなりツケかい!……は、しまった。

加村 これも、ツケておきます。

沢見 ……すみません

加村 いいですよ、私も面白いもの聞かせてもらいましたし、二つ分のツケはこれでちゃらです。

沢見 ……面白いもの?

加村 ええ、とっても懐かしい歌でしたね。

沢見 !!え、あ、あの歌?聞かれた…そ、そうですね、はは、はははは。(言語中枢暴走)

加村 なんてタイトルでしたっけ

沢見 ……ええーっと、確か「○○○(仮サボテンの花)」ですよ

加村 ああ、そうでした。ずいぶん前に聞いた曲なのですっかり忘れてました。

沢見 確かにもう二十年ぐらいたっていますからね。

加村 ええ、そうですか……もうそのぐらい経つんですね

沢見 えっと、何かあるんですがこの歌に?

加村 あ、いえ、ちょっと考え事をしていたもので

沢見 サイですか。ところで、貴女はここになにをしに来たんですか?見たところかなりの軽装だし

加村 女の人をそうじろじろ見るものではないですよ。

沢見 ……すみません

加村 これもツケときます。ここで何をやっていたのかですよね。

   そうですね、簡単に言うとあるものが来るまでちょっと待っていたんです。

沢見 待ち合わせするにはちょっと凶悪な時間ですよ

加村 あ、違うんです。待ち合わせじゃないんですよ。

   私が待っているのは鉄道なんです。星を駆ける銀河鉄道

沢見 え、っと、今何と?

加村 銀河鉄道、と

沢見 SFかい!!

加村 いけませんか?

沢見 いやそういうわけじゃなくて、ただちょっと考えもしなかった答えだったからつい……

加村 いいですよ。こういう風に人と話をするのは久しぶりですし

沢見 ……もしかして引きこもりですか?

加村 ツケおきます

沢見 すみません……聞きすぎました

加村 ……ええ、初対面の人に話すようなことではありませんよ

沢見 サイですか。(もといたところに戻る)

加村 ところで、こんな時間で魚釣れるんですか?

沢見 いや、釣れるわけありませんよ。僕はここで空に写る星と海に写る星を見ているだけです。

   でも、酔っ払いと間違われて補導されると困るからこうして釣りをしながらやっているんですよ。

加村 要するにフェイクですね。

沢見 ええ、まあそういうことです。

加村 いいですね、今日は雲も無くてよく星が見えますよ。(空を指差し)ほら白鳥座があんなところに

沢見 ああ、あの辺りがデネフだからあっちがアルビレオかな

加村 あそこには天体観測所があるんですよ

沢村 あるわけ無いでしょ

加村 という話が銀河鉄道に書いてありました。

沢見(がく)えーと宮沢賢治ですか

加村 ええ、私ファンなんですよ

沢見 サイで

加村 彼が生み出す世界は綺麗でそれでいてちょっとだけ儚くって、そして……ちょっと共感するところがあるんですよ

沢見 ……僕は、彼の話はちょっと苦手ですね。なんたってどうも読み辛い

加村 そうですか?私は初めて読んだのがその「銀河鉄道の夜」だったので別に読み辛いなんて思ったことは無いですけど……

沢見 なんというか生理的にダメなんですよ。想像の範囲を超えすぎちゃって……

加村 そうですか……ちょっと残念ですね、本当にいい話なのに

沢見 今度機会があったらもう一度挑戦してみますよ

加村 絶対にそれがいいですよ。なんなら、明日お貸ししましょうか?

沢見 え?あ、えーとよろしいんですか?

加村 読む気がある人にそんな意地悪しませんよ

沢見 あ、いえ。そういうことを聞きたいんじゃないんですけど

 

携帯のアラーム音

加村が携帯を取り出し確認する。

 

加村 あ、もうこんな時間ですね。そろそろ、解散しましょうか……ちょっと名残惜しいんですけど

沢見 そうですね……ああ、もう受験生もつらい時間だ

加村 それでは本を借りたいのでしたら、明日も同じ時間に同じ場所でということでいいでしょうか?

沢見 ……いいんですか?

加村 ええ、初対面の人に住所を教えるほど私も馬鹿ではありませんし

沢見 サイですか……それではまた明日ここに来ますよ、のんびり待っていてください

加村 あまり気長には待ちませんよ。それではそろそろ帰らないといけないので(歩き出す)

沢見 さようなら。あ、ちょっといいですか

加村 なんですか?(振り向く)

沢見 名前、教えていただけませんか?

加村 そういう場合は聞くほうから名乗るものですよ

沢見 中世のヨーロッパですかここは!

加村 いいえ、でもやはりそれが礼儀というものです。

沢見 サイですね、ええーと改めて、僕は沢見 治。字はサンズイに尺で沢と物を見るの見で沢見 下は病気を治すの治すで治です。職業は……フリ、あ、いえ小説家です。

加村 作家さんなんですか

沢見 ええ、とはいってもまだ本は出てないんですけどね

加村 今の名前はペンネームだったのですか?

沢見 いえ、本名です

加村 面白い本名ですね。宮沢賢治の字が二つも入っているなんで、それに「見る」も読み方を変えると「ケン」になりますしね

沢見 若干皮肉にも聞こえてきますよ

加村 いいじゃないです。素敵な名前ですよ

沢見 それはどうも。それで、貴女の名前は?

加村 私?

沢見 ええ、僕が見る限りだとあなたしかしません

加村 …(すこし考える)…私はカムパネルラ、川に落ちた友人を助けようとした良い人です。

   ちなみに花も恥らう高校六年生ですけど

沢見 高校六年生!?

加村 ええ、ちょっといろいろありましてなかなか卒業できないのですよ

沢見 そうなんですか。

加村 おかげでこうやってのんびりしていますけどね

沢見 ……あのカムパネルラ、さん?

加村 ちなみに仮名ですよ

沢見 聞かなくても分かります

加村 だったらカムパネルラで呼び捨てにしておいてください

沢見 サイですか、それでカムパネルラって誰ですか?

加村 明日くれば分かりますよ

沢見 サイで

加村 それでは、おやすみなさい沢見さん、今度小説ができたら読ませてくださいね(今度こそ歩き出す)

沢見 え、ああ、おやすみなさい   

 

加村その場から去る

船の汽笛の音

 

沢見 ……なんだろな。カムパネルラ、か

 

暗転

 

沢見の部屋   

全体的にきれいというか中央にあるちゃぶ台以外目だったものがない何もない

沢見床に座り考え事

 

沢見 ……カムパネルラ、やっぱどこかで…………どこだったっけ……

 

沢見考える、考えて考えてなぜか鼻歌が始まる

海の時とは違うがやはり古臭いヒットナンバー

 

沢見 …………(歌っている)

 

しまいにゃ歌いだす

 

沢見 あーだから今夜だけはー♪(BY心の旅)

 

その歌につられるように、愁咲が入ってくる。

 

沢見(クライマックス調)AH―明日の今頃はー僕は汽車の中ー♪

愁咲 ジョパンニ何やってんだ?

沢見 空気椅子

 

愁咲空気椅子に挑戦

 

沢見 何やってんだよ愁咲

愁咲 銀行強盗

 

沢見銀行強盗の真似をしだす

 

沢見 うらー金出せや!!!

愁咲 何やってんだ?

沢見 ダンス

 

愁咲ダンスを始める

 

沢見 また何やってんだよ?

愁咲 青い空のロミオ

 

沢見煙突掃除(青い空のロミオ)を演じようとする。

前に気がつく。

 

沢見 っておい愁咲!いきなりなにやらすんだよ。というか青い空のロミオって何だよ、マイナーすぎだ

愁咲 おいおいジョパンニ先生そいつは困る、

沢見 そのジョパンニ先生ってのやめろ

愁咲 いや悪い悪い、仕事先のくせなもんでね

沢見 雑誌の編集者ってのも大変だな

愁咲 そうそう、こうやってジョパンニが仕事先の近くに部屋を借りてなかったら今頃ストレスに過労を加えて死んでたとこだな

沢見 そんなに感謝してんなら、一年の半分以上はこうやってうちで休んでいるんだ宿泊代ぐらいケチらずに払ってほしいぞ

愁咲 うんうん、確かにそうだよな。高校卒業して大学受験に失敗してそれでも一人暮らしを主張して両親と勘当すれば仕送りはこないし、仕送りがこなければお金がないし、つらいし、わびしいし、お金が無ければ遠くにはけないから両親は同じ町だし、大変だな

沢見 それでバイトしてなんとかやってるけど……さっさと高卒で就職決めた愁咲は僕よりも稼ぎがいいだろう

愁咲 まあそうだな、月14万弱ってとこだな

沢見 僕の倍も稼いでいやがる

愁咲 だったら、お前も職安行けよ。どこぞのリストラ中年より若者のほうが就職率いいぞ、きっと

沢見 いや、まだそんなつもりはないし

愁咲 いいのかな~♪それで

沢見 いいんだ、バイトだけでもまだ暮らしているだけ稼げているから

愁咲 なら宿泊代はいらないな

沢見 へ?

愁咲 暮らしているだけ稼げているんなら一人ぐらい多くたって変らないだろう?

沢見 変る!愁咲がここに住み着くだけで食費は倍になるし水道代だって1.5倍くらいはするんだぞ。お前がここに住み着くだけで僕がどんだけ困っているのか知っているのか

愁咲 まあ若気のいたりということで、ねえジョパンニ君

沢見 何じゃそりゃ!

愁咲 俺も知らん(物凄くえらそうに)

沢見 知らんのに偉そうにするな!

愁咲 ふ、これだから偽善者は

沢見 この世界の半分以上は偽善者なんだ、それがどうした、だからどうした

愁咲 自分は偽善者と認めのだな、ジョパンニ

沢見 認める、認めないの問題じゃない

愁咲 ならなんだって言うんだ?

……………。

沢見 はぁ、負けだ、負け。やっぱり愁崎にはかなわないよ

愁咲 じゃそういうことで、俺は早いからもうそろそろ寝るわ

沢見 あ、そうだ愁咲、一つ聞いときたいことがあったんだ

愁咲 何だい、古今東西なんだって聞いてくれたまえ

沢見 カムパネルラって何だ?

愁咲 銀河鉄道のキャラクターのほうか?

沢見 多分そうだ

愁咲 そうだな……川に落ちた友達を助けるために自分も落っこちた悲劇のヒーローってとこか

沢見 ほかには?

愁咲 ジョパンニの親友だ

沢見 ……ちょっとまて、お前今日の夜のこと見てたのか?

愁咲 ん?何のことだ

沢見 とぼけるなよ僕が海でカムパ、いや女の人と話しているの聞いていたんだろ

愁咲 ジョパンニが……ぷ、そういうことか、ははは

沢見 なんだよ、覗き魔

愁咲 ちがうっつーの。ジョパンニ、もしかしてお前今まで自分のあだ名がどこから来たのか知らなかったのか?

沢見 そんなわけ……あれ、そういえばいつから僕ジョパンニって呼ばれたんだろう

愁咲 まったく、物忘れの激しいジョパンニだことで、ジョパンニは銀河鉄道のキャラクターつか主人公だぞ

沢見 そうだったのか?

愁咲 そ。そしてさっきも言ったとおりカムパネルラはジョパンニの親友ってなわけ

沢見 サイ、か……ありがとな、それじゃあ僕は寝るよ

愁咲 ちょっと待て~ジョパンニ

沢見 なんだよ

愁咲 さっき、海で女の人と話したていったろ

沢見 ん?あ、ああ

愁咲 どこでナンパした?いやージョパンニにそんな度胸があるとは思わなかった

沢見 え?ちょっと

愁咲(窓の向こうに)この人は私という女がいるってのにー

沢見 やめんか!

愁咲 悪い悪い。でもあのジョパンニが……あははは

沢見 そりゃ、高校のときはいろいろあったし

愁咲「僕は女子生徒には屈しません」とかいって全校の女子と戦ったもんな

沢見 というか全てはお前が「この学校は詰まらん」とかいったせいじゃないか。断じて僕のせいじゃない

愁咲 そういうの責任転嫁って言うんだよな

沢見 そういうときにだけかたムズかしい言葉を使うな

愁咲 はいはい、ジョパンニ君それじゃあそろそろ寝ようといたしましょうかね

沢見 分かったよ、僕も明日は結構早い時間帯からバイトが入ってるからそろそろ寝よう

 

沢見電気を落とす

部屋の明かりが弱くなる。

 

愁咲 なあジョパンニ、こうして暗い部屋にいると、なんかいろんなこと思い出すよな

沢見 そうか?

愁咲 俺はそうだな、ほら幼稚園なんかのお泊り保育なんかそんな感じだったな……自分の家じゃないとこでなかなか寝付けなくってさ

沢見 いいな、愁咲の幼稚園お泊り保育なんかあったんだ

愁咲 もしかしてジョパンニ、お前幼稚園でお泊り保育なかったのか?

沢見 そうだったと思うよ。たしかあのころ同じクラスに病弱な子がいたはずだから

愁咲 なるほど、その子のせいでお泊り保育は無しっと

沢見 そういうこと。なんか滅茶苦茶行きたかった気がする

愁咲 しかし、その娘のためだけにお泊り保育なくすなんてな。普通ありえないぞ

沢見 いや、その娘の家ちょっとした金持ちでさ、幼稚園のほうが逆らえなかったような記憶があるな

愁咲 そんな小説みたい奴がいたんだな。どうだそいつ、やっぱり「おーほほほほ」みたいなキャラだったのか?

沢見 どうだったかな……なんかお金持ちのお嬢様って意識しないとそういう風に見えなかった気が……

愁咲 でも「おーほほほほ」じゃ無くても言葉遣いは流暢だったりしないのか?

沢見 どうだったかな……なんか普通ぽかったけど

愁咲 ふーむお前の感性はかなり低水準をいっているからな……

沢見 どういう意味だよ

愁咲 そのままの意味だ。まあ、ほかに考えられるのは偽者説だな。友達作りのために身分を偽ったとか?

沢見 なんか前者の言葉が気になるな……でもそれはないよ。おぼろげながら彼女の家で遊んだ記憶がある。

愁咲 うむ、ならやっぱり「バーン」と出てくるような豪邸みたいなところか?

沢見 いや……たしか違う、普通の一軒家だったはずだよ。それでも家の中に家族以外の人もいたから。やっぱり金持ちだったんだって驚いてた気がする

愁咲 ほう、使用人がいたのか

沢見 そうだったかな……なんか違うような気が…………

愁咲 いや人の記憶なんてものは細かいところまでは注意していないとおぼろげにしか覚えていないものだ。たぶん当時のジョパンニは彼らのことを使用人と思わないで、服まで細かく見ていなかったんだろう

沢見 そう、かもな……

愁咲 さてさて、ジョパンニ君の過去話も聞けたことだし、ここは大いに寝るとしますか

沢見 オイちょっと、人に一方的にもの語らせておいてそれは卑怯じゃないのか

愁咲 ふ、寝た者勝ちさ

沢見 そんな言葉がどこにある!

愁咲 叫ぶのも大概にしとけよ、お隣さんに迷惑だ。それじゃあお休み

 

愁咲 さっさと寝る

 

沢見 はあ、愁咲って寝たら何やっても人工的には起こせないからな……まったくおかげ寝そびれた……

 

沢見一度明かりをつける。

 

愁咲 や、やめろ~その女はジョアンナは関係ない~~(寝言全開)

沢見 ……何やってんだこいつ?

愁咲 は、早く鉄砲の弾を~、おい、ジャック?

・・・・・・・・。

沢見 まったく寝言のレベルを大いに超えてるな……

愁咲 ブルーダスお前もか……!!

沢見 人が代わってる?!

愁咲 どうです、腹心の部下に殺される感想は

沢見 しかも、一人二役?!

愁咲 金政権は永遠に不死身なりー。ジークヒトラー、アイルブッシュ

沢見 こいつ、いったい……?

愁咲 私の屍を超えてゆくのだ……ジョパンニよ

沢見 俺かよ!!

愁咲 くくく、先生その作品はちょっと……あなたもなかなか悪ですね。(転調)ほーほほ、そちものぅ

沢見 もしかしてすべて仕事先の会話なのか……?

愁咲 地球は地軸で回っている!!!!!!

 

・・・・・。(愁咲静かになる)

 

沢見 いっぺん放り出しとこうかな、これ

 

とか言っておきながらも重いから沢見放り出せず

結局そのままにして、沢見は一人黄昏状態

 

沢見 ……カムパネルラか

明りの雰囲気が変わる(アカっぽい感じ)

聞こえないはずの波の音

 

沢見 ……(気がつかない)

 

波の音

 

沢見 カムパネルラはそこから消えていました、か……(自然と口からこぼれてくる感じに)

 

・・・・・・。

 

突然子供たちが入ってくる

 

子A かーごめ、かごめ

子B かごのなーかのとーりーは

子C いーつーいーつであう

子D 夜明けの晩に

A~Dつーるとかーめがすーべった

子全 後ろの正面だーれ

沢見 あ、みんな何してるの

子A おい、人殺しがくるぞ、逃げろー

 

子供たちが散り散りに逃げていく

沢見その中の一人を捕まえる

 

沢見 待ってよ

子B ごめん、お母さんがもう遊ぶなって(振りほどく)

沢見 ……(なんというか脱力)

 

別のとこから子供が二人現れる

 

子C ねえ、聞いた?沢見君ってさ

子D 聞いた聞いた、加村さんを殺したんでジョ

子C いけないよねー

子D いけないねー

沢見 違う、僕はそんなこと――

子A だったら何でここに加村は来ないんだ?

子B だったら何でここに加村さんが来ないの?

沢見 それは分からない……

子C やっぱり加村さん殺されたから?

子D やっぱり沢見君が殺したら?

沢見 違う、僕はそんなことやってない

子全 人殺し、人殺し、人殺し、人殺し

沢見 やめろ……やめてくれよ……

子全 人殺し、人殺し、人殺し、人殺し

 

子供たちが沢見を「人殺し」と連呼しながら沢見を囲う。

ひとしきり言うと突然ぴたりと喋るのをやめる

そして、女の子の声

 

女の子 助けてよぅ、沢見……クン…………ねえ苦しいよぅ……

沢見 ああぁ、うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!

暗転

 

また、部屋に明かりがともる

沢見は机に突っ伏していて、愁咲がスイッチのところに立っている。

 

愁咲 やれやれ、どっちの寝言が大きいのだか……

   おかげでレム睡眠まで入ったのに意識が引きずり出されちまったじゃねーか

・・・・・・。

愁咲 にしてもなにやら罪意識が大きいことで。面白そうだしちょっと調べてみるか……

 

愁咲が鞄を持って部屋を出て行く

再び波の音

そして、先ほどの女の子の声が聞こえてくる

 

女の子 ねえ、沢見クンって下の名前なんていうの?

    ……

    そう、治って言うんだ。いい名前だね

    ……

    そう?だって宮沢賢治の漢字が二つも入ってるし「見る」だって読み方を変えると「ケン」って読めるよ

    ……

    あ、ゴメン。沢見クンまだ漢字読めなかったんだっけ

    ……

    ………

    助けてよぅ、沢見……クン…………ねえ苦しいよぅ…… 

 

沢見目を覚ます

 

沢見 風ちゃん!!

・・・・・・。

沢見 また、あの夢か……僕はいつになったら……。

   あれ?愁咲のやつもう出かけたのか。まあ不幸中の幸いってとこか、おかげで今のことを聞かれずに済んだしな……あ、もうこんな時間だ。そろそろバイト先に向かおう

 

沢見部屋から出て行く

暗転(少し長め)

波の音

再びあの夜の海

沢見、いつものように天体観測している。

 

沢見 カムパネルラ、か……

 

波の音

加村が現れる

 

加村 あの、釣れますか?

沢見 ……いいえ

加村 どうしたんですか沢見さん。会って二日目ですけど妙に元気ありませんね

沢見 ……ちょっと、今日見た嫌な夢が頭から離れなくて

加村 そうですか。

 

・・・・・・。

 

加村 どんな夢でした?とても高いところから落ちていくような夢だったんですか?

沢見 ……別にそこまで嫌な夢じゃないんですよ。ただ自分と昔の友達が出てきた夢です。

加村 昔の友人が出てくる夢が何で気になるんですか?

沢見 さあ、何ででしょうね。僕も実は良く分からないんですよ

加村 よく分からないのですか

沢見 ええ、あまりにも曖昧すぎて。ところでカムパネルラは学校へは?

加村 行っていませんよ。まだベットの上でのんびりしてます。

沢見 サイですか、僕もまだ小説はかけてないんですよ

加村 昨日のこと覚えてくれたんですか

沢見 ええ、まあ、ぎりぎりですけど

加村 ぎりぎり、ですか……

沢見 どうしました?

加村 え、いえ、ちょっと考えてただけです。あ、そうだ私も小説家になりましょうか?そのほうが部屋で仕事ができますし

沢見 お勧めしません。駆け出しのときはバイトぐらいでしか収入ありませんから

加村 そうですか、それじゃあ私にはちょっと無理ですね

沢見 これでツケは一つ返しですね

加村 いいえ、さっき相談に乗りましただから±0です

沢見 何でやねん!!……ってうわ~

加村 ツケておきます

沢見 ……すみません、ところでこのツケって何で返せばいいんですか?

加村 6たまったら考えます

沢見 6って……また中途半端な数字を……ちなみに今はどのくらいで

加村 利息をつけて4ぐらいです

沢見 これからは気をつけます…って利息ありですか!?

加村 はい一日で300㌫ほど

沢見 十一(といち)より凶悪じゃないですか

加村 お金じゃないだけ、ましだと思いますよ

沢見 そういう問題ですか?

加村 個人的にはそう思いますよ

沢見 ……ここにもかなわない人が独りいた

加村 なんですか?

沢見 いいえ、ちょっと独り言です

加村 私は多分、沢見さんより弱いと思いますよ

沢見 って聞いてたんじゃないですか

加村 すみません。耳には自信があるんですよ

沢見 地獄耳ですか!

加村 女の人をそういうふうに言うものではありませんよ

沢見 ……すみません

加村 ツケておきます

沢見 ……あとが無い

加村 そうですね、あと一つですね

沢見 はあ、ダメだな僕(一息)

加村 そういうことは言ってはいけませんよ。

こういうことは言った時点で負けになりますから

沢見 ……そうですね、これからは気をつけます

加村 ええ、気をつけてくださいね。ちなみに今のはツケにカウントしませんから

沢見 ありがとうございます

加村 いいえ、今夜も星が綺麗ですから

沢見 確かに……綺麗な夜空だ

 

二人して星を見上げる

 

波の音

 

突然加村が咳き込む

 

加村 ごほ、ごほごほ

沢見 あ、大丈夫ですか?

加村 ごほ、ごほ、ええ、ちょっと最近風邪気味なものですので気にしないで下さい

 

そう言って加村はとっさに手を隠す

 

沢見 なら尚更ですよ。早く家に帰って休んだ方がいい。

   夏風邪はこじれると大変ですから

加村 大丈夫です。

沢見 でも

加村 そんなに心配なさらなくても結構ですよ。私のことは私が一番わかっていますから

 

といっておきながらもう一度咳き込む

 

加村 ごほ、ごほごほ

沢見 ほらやっぱり、大丈夫ですか

加村 ええ、大丈夫です。多分ちょっと疲れているだけですから

沢見 ……もしかして僕のせいですか?

加村 四割はそうですね 

沢見 すみません……

加村 いいんですよ、もう六割は自分のためですから

沢見 ……今日も待っているんですか

加村 ええ、銀河鉄道を

沢見 ……(加村をじっ見つめる)

加村 女の人をそうじっと見るものではありませんよ

沢見 え?(我に変える)ああ、すみません。さっき言ってた友達、もしかすると大きくなったらこういう風になるんじゃないかって思ったんですよ

加村 女性だったんですか、でもそれは恋人って言いません?

沢見 あの時はまだ小さかったんですよ。なにせ幼稚園のころの話しですから

加村 幼稚園のころ、ですか……

沢見 どうしたんですか?何か気になることでも

加村 いいえ、別に何もありません

沢見 サイですか……

加村 星、綺麗ですね

沢見 さっきもやりましたよそれ

加村 そうでした

沢見 でも、いい星だ

加村 そういえば、沢見さんって何でこんなとこで天体観測なんかやっているのですか?

沢見 ……ああ、それは

加村 それは?

沢見 ……忘れました

加村 ふふ、そうですか

沢見 そういうカムパネルラこそ、なんでここで銀河鉄道を待っているんですか?

加村 ちょっとした約束です。本当はもう一人ここにいるはずっだったんですけど

沢見 サイですか……すみませんちょっと込み入ったこと聞いちゃったみたいで

加村 私も同じようなことを聞きましたのでこれで±0です。

沢見(クスリ)そうですね

加村 あ、そうだ、約束していた本、渡しておかないといけませんね

 

加村、せきを込んだときに使わなかった手で銀河鉄道の夜の本を出す

 

加村 どうぞ、

沢見 ありがとうございます(受け取る)

加村 短編集ですのでがんばればすぐ読めると思いますよ

沢見 そうなんですか、僕はてっきり長編でニ、三冊ほど厚い本が出てくるのかと思いましたよ

加村 みんな最初はそういうんです。「短編なのか!?」って

沢見 何せ名前のスケールが大きすぎますから

加村 確かにそうですよね

沢見 それじゃあ、これは確かにお借りします

加村 そうだ、よろしかったその本もらっていただけませんか?

沢見 え?でも――

加村 私の本棚、もう本がいっぱいなんです。ちょっと整理したいんでいくつか捨ててたところなんですよ。小説って古本屋じゃあまり売れませんから

沢見 いいんですか?

加村 ええ、読まれないで埃をかぶるよりそっちのほうがずっとよさそうですから

沢見 サイですか……そういうことならありがたくもらわせていただきます

加村 ありがとう

沢見 あ、いえそれはこっちの台詞ですよ

加村 それでも言い出したのはこっちですから

沢見 そうですね、ならこうですね、どういたしまして

加村 ふふ、なんか小学校の低学年のような会話してますね私たち

沢見 確かに。そういえば小学校といえば僕小学校のころからなぜかジョパンニってあだ名で呼ばれているんですよいるんですよ

加村 ……ジョパンニですか

沢見 ええ、自分でも由来がよくわからないんですけど銀河鉄道の主人公の名前らしいです

加村 そのあだ名、幼稚園のころに女の子からつけられませんでした?

沢見 どうだったんだろう……実はそのころの記憶が曖昧なんですよ

加村 そう、ですか、すみません変なこと聞いちゃいましたね

沢見 いいですよ

・・・・・・。

加村 そろそろ時間ですね

沢見 そうですか?(時計確認)あ、本当だもう結構な時間じゃないですか

加村 なら、そろそろ解散しましょうか

沢見 ですね

加村 それでは(歩き出そうとして立ち止まる)あ、沢見さん、今のツケは6ですからね

沢見 え?

加村 ツケはそうですね……今度出来上がった小説を一番に読ませてください。それでツケはチャラですから

沢見 小説、ですか

加村 ええ、楽しみに待っていますよ

沢見 え、でも――

加村 それではおやすみなさい沢見さん

沢見 え、ええ。おやすみなさい、夏風邪は本当に気をつけてくださいよ

加村 ええ、大丈夫です

 

加村歩き去る

 

沢見 ……小説か……どうしよう

 

暗転

 

沢見の部屋(一応昼)

沢見ちゃぶ台の上に載って考える

 

沢見 むぅ……

 

考える、考えてなぜか歌いだす

 

沢見 …………(鼻歌)

 

仕舞いには口ずさむ

 

沢見 ほんの~ちいぃさなー出来事で~♪(海のときと同じ曲)

 

軽く1フレーズほど歌って終わる

 

沢見 ……おもいつかない

 

さらに考える

 

沢見 ああ!!!もう、だめだ、だめ。こういうことは愁崎に相談するのがいいんだけどな……なんでこういう時に限っていないんだよあいつ

・・・・・。

沢見 あああああああ!!!!ネタがない、タネがない、原稿もない!!!

・・・・・。

沢見 はぁ(ため息)こういうときは寝るか……

 

沢見ちゃぶ台に突っ伏す

少しの間

再び聞こえないはずの波の音

色調が変わる(赤っぽいようなワインレッド)

沢見突然目を覚ます

いないはずの女の子の声が聞こえてくる

 

女の子 助けてよぅ、沢見クン……ねぇ、苦しいよぅ……

沢見  !!風ちゃん!!大丈夫、僕がいるから

女の子 私にも……銀河鉄道って来るのかな……

沢見  何いってんだよ、風ちゃん!!ねえ風ちゃん!!

女の子 花火と海、今度は見れるかな……

沢見  見れるって!僕が連れて行くから!!

女の子 そのとき列車が……来くれるなかなぁ……

沢見  来てくれるよ!!だからさ――

女の子 そのときは沢見クンも……一緒だから

沢見  わかった、わかったから

女の子 私がカム……パネルラ、だったら、沢見クンはジョパン……ニかな……

沢見  ジョパンニ?

女の子 そう……ゴメンちょっと疲れたみたい……

沢見  風ちゃん?!ねえ風ちゃん!!!

ピー

心電図の止まる音

静寂 

 

沢見  ああぁ、うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!!

 

色調が戻る

 

沢見 ……ゆめ?だったのか……いまの……

 

愁崎が部屋に入ってくる

 

愁崎 何やってんだよジョパンニ。おかげで玄関から3メートルほどぶっ飛んだぞ

沢見 しゅ、愁崎!まさか今の聞いていたのか?

愁崎 聞くも何もずいぶん前から知ってたぞ、そんなこと

沢見 何!?

愁崎 面白そうだから調べもした

沢見 ぬぁに!!!

愁崎 ふぁ~こっちは徹夜気味なんだ、ちょっと寝かせてくれ

 

愁崎そのまま横になる

 

沢見 ちょっと起きろ愁崎!!どういうことなのかちゃんと説明しろ!!

愁崎 男に迫られても俺はうれしくないぞ

沢見 だああああ、違うっつーの。何をどういう風に調べたのか聞いてるんだ!!

愁崎 詳しくは俺の鞄の中にある資料でも見てくれ、それじゃあお休み……

 

愁崎完全熟睡モードに移行

 

沢見 起きろ!!!!

愁崎 ZZZZ(寝てる)

沢見 ……仕方ないか……寝たら人工的には起こせないからな……

   鞄の中とかいったよな。ちょっと見てみるか

 

沢見、愁崎の鞄の中を物色

中からいろいろなものが出てくる

 

愁咲 きょ、京子!!なんでお前がここに!!

沢見(無視しておもちゃのロボットを取り出して)こ、これはあの幻のアルファイダーZ!?

 

さらにもうひとつ、今度はみかんが出てくる

 

沢見 なぜに鞄からみかん……

愁崎 ブルーダス、お前もか……!!(寝言)

沢見 うるさい!!

 

さらにもうひとつ今度はノート

 

沢見 これか……?沢見生態系調査ノート?っておいこら僕はいつから新種の生物になったんだ!!!

愁崎 おーアンドリュー、彼方は何でアンドリューなの?(寝言)

沢見 ……見たいのはやまやまだが今は目的が違うな

 

さらにもうひとつ黄色いプロペラ

 

沢見 タケコプタ―っておいこら、なんで未来の道具がここにあるねん!!!

愁崎 必殺!!鶏がらスゥゥゥプゥゥゥウウウウ!!!(寝言)

沢見 ……ひっくり返そう

 

沢見鞄をひっくり返してみる

出てくるのはおもちゃにおもちゃばかり

 

沢見 ……資料ないし

愁崎 や、やめろ……その女は柚子たんは関係ない(寝言)

沢見(無視)あ、前ポケットもあったんだな

 

沢見 前ポケットを開ける

そして中から一束の表紙にマル秘を書かれたルーズリーフを取り出す

 

沢見 これ、だな……表紙にわかりやすくマル秘なんか書いてあるし

  (中を広げて)なになに……某日○○時おいて作戦名$&79(ドル アンド セブンティナイン)を開始する。作戦内容は某アメリカ宇宙基地の調査および裏工作の妨害

   詳しくは……っておい!!あんたは本当に雑誌の編集者かよ!!

愁崎 先生、ここまで資料集めましたよ……(転調)いやいや、ご苦労だったね、愁崎君、それでは後はこれとこれだ。(戻る)はい、わかりました(寝言)

沢見 ……どういう雑誌だよ

   ……後残るはもう一個前のポケットだけか

 

沢見もう一個前のポケットを開ける

中からは一冊の大学ノート

 

沢見 今度こそ当たってるよな……

  (開ける)特別捜査「フウチャン」を追え……どこかの特番かい、それとなぜに風ちゃんって単語が出てくるんだよ。とにかくこれだな、何々……

   われわれはジョパンニが寝言で絶叫していた「フウチャン」たる人物を追い求めて特別調査団を設置した。

   なぜって?面白そうだから

   とにかく、フウチャンたる人物の真相を求めてわれわれ特殊捜査団は調査を開始した。

   まずは自宅での聞き込みだった。彼のほとんどすべてを把握しているA・S氏の話によるとフウチャンとはジョパンニの幼稚園時代の友人らしい

   そこでわれわれは彼の幼稚園を訪れ、ジョパンニの過去を知っている用務員のおやっさんD・O氏に接触を計った

   彼はもうすでに70歳と高齢だったが当時のとこを鮮明に覚えていたので大いに助かった。彼の証言によるとフウチャンとは加村 風花という女性のことを示すらしい、「加村 風花」名前がわかればこちらのものだ

   全国の人物名に「加村 風花」に条件としてジョパンニの卒園した幼稚園名を加えて検索にかけた。

   そして、わかったことは衝撃の事実だった!!

   ……。

   って、おいこら!!なんだこの思わせぶった展開は!!しかも僕の母さんと大宮さんじゃないかバレバレだっての。しかもここで文章終わっているじゃないか!!衝撃の事実って何なんだよ滅茶苦茶気になるじゃないか

愁崎 大きな栗の木下で~(寝言)

沢見 ……結局こいつが起きるまで待つしかないのか

愁崎 ドキッ!オカマだらけのK1グランプリ(寝言)

沢見(かなり無視)いったいいつになったら起きるんだどうなぁこいつ

 

沢見、そういいながらも出したものを片付ける

だんだん、日が暮れていく

夕焼け空

 

愁崎 ふわ~あ、よく寝た。(起きる)

沢見 さあて、愁崎。何をどうしたのかしっかり説明してもらおうか

愁崎 なんだジョパンニ、調査ノート読んだんじゃないのか?

沢見 あのノート「衝撃の事実だった!!」のあと何も書いてなかったぞ

愁崎 あ、そうだったすまんすまん。今日も徹夜でそのことを調べてたからな

沢見 僕のプライバシーはお構いなしかい!!

愁崎 こういうものは気にした時点で負けだ

沢見 負けてもいいからプライバシーを返せ!

愁崎 でも、ジョパンニだって知りたいだろ「風ちゃん」がどこにいるのか……

沢見 ……あのさ、愁崎。風ちゃんは、加村 風花はもう……もう生きていないんだ!!

愁崎 人間の不思議って知っているか?

沢見 ……いきなりなんだよ

愁崎 まあ、いいから聞けって。

   例えばだ、凍った池でスケートをしていた子が突然ひび割れにはまって凍った池の中に落っこちてしまうとする。しかも、それに気がついたのは1時間後。どうだジョパンニ、この子は助かると思うか?

沢見 ……普通助からないな

愁崎 そう思うだろ、でもそれが助かる場合もあるんだ。その子の場合、全身が凍ってしまった逆に言うとその状態だから細胞が死滅せずにそのままの状態で残った。つまり慎重に暖めなおしたら奇跡的にも死な無かったって話だ。どうだ、不思議だろ

沢見 それでもだ、その子はその子、風ちゃんは僕が見ていた目の前で……

愁崎 心電図はとまっても五分以内なら蘇生の可能性は非常に高いのを知っているか?

沢見 ……でも、その後だって幼稚園に来なかったし

愁崎 その辺は本人にでも聞くしかないだろ、でもこれだけははっきり言っておこう。加村 風花は今も生きている

沢見 うそだ!

愁崎 俺の情報網は確かだ。なんにも間違えたものは取り扱わない

沢見 それでも――

愁崎 ここからはジョパンニ、お前の問題だな……まあどうこう言うわけじゃないが居場所ぐらいなら教えてやろうか?

沢見 ……悪い、ちょっと夜風に当たってくる(ややよろよろと外にでる)

 

・・・・・・。

 

愁崎 さてと、俺はどうジョうかね……っと俺は仕事の時間みたいだな

まあ、悩める幼年期にそろそろ終止符を打ってくれよジョパンニ

 

とか言っときながら鞄を持ち愁崎、部屋から出て行く

 

暗転

 

波の音

夜の海

加村が一人海を見ている

 

加村 ジョパンニ……やっぱり彼が……

 

沢見が入っている

 

沢見 ……あ、カムパネルラ

加村 沢見さん、今日も天体観測ですか?

沢見 ……いいえ、ちょっと考え事です。いろんなことがごっちゃになってしまって

加村 そうですか、少し残念ですね、今夜も星がきれいですよ

沢見 ……今はちょっとそんな気分になれませんよ

加村 機嫌悪いですね

沢見 友人とちょっとけんかしたんですよ

加村 ……普段と違ってちょっと怖いですよ

沢見 ……すみません、そんなに怖かったですか?

加村 ええ、殺気立ってました。

沢見 サイですか……

加村 こんなにいい夜空なんですからもっといい顔しなさい!(ちょっと世話焼きお姉さんのイメージ)

沢見 は、はい

加村 よろしい、それではこれもツケておくことにします

沢見 やっぱりツケなんですね

加村 ええ、これで19です

沢見 多いですよ

加村 何せ一日で利息300%ですから

沢見 このままじゃ、三日後には三桁行ってしまいますよ

加村 そうしたら、また何か考えます

沢見 サイですか……心得ておきます

 

波の音

二人静に天体観測

・・・・・・。

 

二人 あの?

 

・・・・・・。

 

加村 沢見さんからどうぞ、私は後でもいいので

沢見 いえ、カムパネルラの方からどうぞ、僕はそんな大したことを聞こうとしたんじゃないの

   で

加村 私もそんな大したことじゃないので先にどうぞ

沢見 サイですか……えっと、それで夏風邪は大丈夫なんですか?

加村 あ、そのことですか。実はまだちょっとつらいんですよ

沢見 いいんですか?それなのにこんなとこにいて

加村 ええ、今日はちょっと特別なもので

沢見 ……特別?

加村 ええ、花火の試し打ち今日なんですよ

沢見 へぇ、そうだったんですか

加村 ですから、今日はちょっと無理をしました。

沢見 そこまでやると、本当にこじらせたときに大変ですよ

加村 承知の上です。今年を逃したら来年はどうか分からないので……

沢見 え?

加村 あ、いえ、私の私情ですから沢見さんが気にすることはありませんよ

沢見 ……それで、カムパネルラは何を言おうとしたんですか

加村 その私情のことを少し話しておこうかと……沢見さん、いいですか?

沢見 ええ。でも大したことはない話のはずじゃなかったんですか?

加村 ええ、でもちょっと大切なんです。

沢見 ……ツケ、いくらか減らしてくださいね

加村 分かりました それで、話なんですけど、実は今までちょっと嘘ついていました

沢見 嘘?

加村 ええ、嘘です。……私、重い病気の病人なんです

沢見 ………え?

加村 黙っていてすみません。でも、多分今言っておかなければいけないと思うので

沢見 どういう、意味です?

加村 ……時間、もうあまり残っていないんです

沢見 それって!!!!

加村 お医者様から余命半年なんで言われちゃいました

沢見 おおごとじゃないですか!!!こんなとこ居ないで早く病院に戻って休んでください

加村 お願いです。今日だけはもう少しここに居させてください。花火が打ちあがるまででいいですので

沢見 ………………いえ、病室にもどってください(ちょっと冷たく)

加村 ……そうですか

沢見 僕だって花火を見せてあげたいです。でもそんなことして自分の命を死に近づけるようなことをしていいわけありませんよ

加村 ……沢見さん?

沢見 いいですか、今ここでこのようなことで命を縮めるのはどんな価値があるのか考えたことってありますか?

こういう危ないことが失敗したときにかかわっていたものの気持ちを考えたことはありますか?

   僕は、そういうことを考えないで軽率なことをしたばっかりに、一人の女の子を……一人の友達を殺してしまったんです。……もしですよ、あの時僕が無理をしないで彼女を連れ出さなかったら彼女はまだ生きていたのかもしれません。確かに当時の僕にはそんな考えはありませんでしたけど、病人に無理をさせたらどうなるかぐらい分かっていたはずです。

   でも、それでも、僕は彼女を連れ出して外に出たんです。

   彼女と海へ花火を見に行くために。……その先はさっきも言ったとおりです。

   海も花火も、行く途中で彼女が発作を起こしていけませんでした。

   わかりますか、目の前で友達が死んだんですよ!

   あなたの周りにいる、両親や兄弟、医者に看護婦、友人、知人みんなに何かしらの影響を与えることになるんですよ!……お願いですから、もう少し自分を大切にしてください

加村 沢見さん……ちょっとだけいいですか。

沢見 ……ええ

加村 ひとつ訂正させていただきます。

   さっきの話に出てきた女の子ですけど、もしかして名前「加村 風花」という名前ですね

沢見 知っているんですか!!風ちゃ……いえ、「加村 風花」を

加村 ええ……彼女は今も病気と戦いながら生きています。

沢見 あなたも、愁崎と同じことを言うんですね

加村 ……その愁崎さんがどこまで知っているかは知りませんが、あの後彼女が眠ったあと心電図は確かにとまりました。でも、心臓が止まったわけではなかったのですよ。

   実は心電図についていたコードが接触不良に陥って心電図が止まってしまったんです

   それでも、医療ミスを危惧した両親が彼女を遠くの大学病院へ移送、彼女はこの町を出ていくことを余儀なくされたのです。

沢見 ずいぶん、詳しいんですね

加村 ええ、そしてその話には続きがあります。

   ある雪がちらつく日に、高校を二回留年した彼女は大学病院の先生にこう言われました。

……余命一年と。

   両親は前々から覚悟は決めていたのでしょう。好きなようにしなさいと彼女に言いました。そして彼女は……この町に帰ることを望みました。

沢見 ……あの――

加村 彼女はいえ私は、私は……ごほ、ごほごほ(ひざを突いて咳き込む)

沢見 風ちゃん!!(駆け寄る)

加村 ごほ、風ちゃんと呼ばれるにはちょっと時間がたちすぎましたよ……ごほごほ

沢見 それでも――

加村 花火、今年で………たぶん最後ですから……ごほごほ

沢見 わかった、分かったからもう――

加村 大丈夫ですよ……まだちょっとした発作だけですから……余命も半年残っていますし(気丈にも立ち上がる)

沢見 だからって……こうやって会えたのに……

加村 ごめんなさい、私も初めて会ったときは本当に沢見クンだとは思わなかったから

沢見 ……余命、半年って言うのは本当のこと?

加村 ええ、半年のうちに肺の提供者が現れれば話は別でしょうけど、このままだと私は後、半年ほどで死んでしまうそうです

沢見 ……どうがんばっても?

加村 ええ、神様が不平等で私だけを優遇してくれでもくれない限り

沢見 サイ、か……

加村 ……まだ、病室に戻れって言います?

沢見 言わないよ、本当は戻ってほしいんだけど

加村 ありがとう、ございます

沢見 いいよ……それよりも花火、まだかな……

・・・・・・。

少しの間があって花火が上がる。

どーん。

ニ、三発あがったら花火はそこでオシマイ

 

加村 終わりましたね

沢見 ああ、終わった。

加村 こういうもののあとってちょっと寂しくなるものなのですね

沢見 夏祭りみたいにあたりに人がいないから

加村 ですね……私はちょっと夏祭りにはいけないのでよく分かりませんが

沢見 そういえば、そうだったなぁ

加村 ……そろそろ帰りましょうか?

沢見 確かに、もうよい子は寝る時間だ

加村 古いですよ、その台詞

沢見 サイで……それじゃあ帰ろうか病院まで送るよ

加村 何だが急に子供っぽくなりましたね

沢見 どういう意味です?

加村 いろんな意味で、です。

   それじゃあ行きましょう(ちゃっちゃと)

沢見 子供っぽいって……ちょっと、そんなに急いだら体に悪いって

 

二人退場

 

暗転

 

沢見にスポット

沢見 こうして僕の夏が始まり、また終わった。

それからはまるで時計が壊れたかのような時間の進み具合だった。

   木の葉が色を変え、落ち葉となり。北風が吹くようになり、雪がちらつき

   その雪が解けて、桜が舞った。

   それは夏のそれでも比較的涼しい夜だった。

   僕は海で星を見ていた。

暗転

波の音

夜の海

沢見が釣道具もなしに天体観測をしている。

きているのは黒い服

 

沢見 ……ほし、きれいだな

 

愁崎が入っているくる。

手にはコーヒー二本

やはりきているのは黒い服

 

愁崎 やっぱここか、ジョパンニ

沢見 ……愁崎か

愁崎 おう、元気か

沢見 ……元気なわけない

愁崎 だろうな……なんかあっというまだったもんな

沢見 ああ、あっというますぎて何もできなかった気がする

愁崎 確かに。結局、就職決めなかったしな

沢見 余計なお世話だ……。それに僕は――

愁崎 ほれ(コーヒー渡す)

沢見 ……(受け取る)

愁崎 くよくよする前に、前見ろ前。そうすりゃ適当に次が見えてくる

沢見 ……僕は愁崎とは違うんだ

愁崎 人間誰しもそうだと思うけどな

 

・・・・・・。

 

沢見 ……げんこう(ポツリ)

愁崎 は?

沢見(立ち直る)愁崎、原稿を用意しろ!

愁崎 あいよ(鞄から原稿用紙が一束)

沢見 ぬぁ!!

愁崎 そりゃ、自称作家様の家に泊まっているんだ原稿用紙の常備は必須だ

沢見 くくくく、よっしゃ、やるか!!(原稿用紙を手にとって)

愁崎 おう、できる限り手伝ってやるよ

沢見 サンキューな

愁崎 YOUR WELCOME、そういうことで俺は部屋行ってるからな

 

愁崎退場

とたんに静かな雰囲気になる

波の音

 

沢見 ……風ちゃん、今夜も銀河鉄道は来ないよ

   いつか、来るよな。

   そう、こんな日にでもさ………

・・・・・。

沢見 さて、そろそろ復活するか

   切符の長さは違えど、それは必然なんだから……よし大丈夫、いけるな。

   それじゃあちょっと行ってくるよ。

   今度、作品ができたら一番で見せに来る。

   それでツケはチャラだったよね

   それじゃあまた、風ちゃんおやすみなさい…………………………

 

暗転

沢見と加村にスポット

 

沢見 こうして、僕の夏が始まった。

加村 こうして、私の夏が終わった。

沢見 全てが解決したわけじゃなけど……それでも僕は逃げないでいようと思う。

加村 全てが解決したわけではないけど……それでも私は昔のように弱いままではいけないと思

う。

沢見 それがたとえ違う長さの切符だとしても

加村 それがたとえ最後の切符だったとしても

沢見 二つの線路が重なったことには代わりはないのだから

加村 そして、それはやがて分かれることになることも承知の上だから

沢見 あきらめるわけではない

加村 あきらめたわけではない

沢見 だからこそ

加村 それだからこそ

二人 ここまで前を向いていられたのだから

 

FIN

 

 

 

 

 

 

 

 

製作誤記

なんつうわけでどうもです。今回も長ったらしい作品になってしまいましたが製作誤記を読んでいるという事は全部呼んでもらったと言うことで何かとうれしく思います。それではだんだんつまらなくなっていくネタ明しの始まりです。

 

鼻歌

ちなみにこれは何でもいいんです。ちょっと古い歌なら……ただ今回は私の好きな「サボテンの花」と「心の旅」を書かせていただきました。(無許可ですけど)

 

加村の病気

……詳しく決めてないんですよ、実は……。一応吐血できるから肺関係の病気なんですけど、なんと言っても小さいころからかかっていてそれで居て21になっても治らない病気って私はしりませんから、一応不治の病という感じです。

 

名前

沢見 治……本編でも言っている通り宮沢賢治からなじられて書かれています

加村 風花…苗字は宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」のカムパネルラから、下はある小説の名詞から

愁咲 輝康…Feeling

 

声だけの女の子

お気づきでしょうが加村風花(幼かったころ)です。

 

あとがき(全部読み終わってから読んでください)

さてまあとにかく、リメイクしました。帰ってきました「銀河鉄道と(以下略)」個人的に今まで書いてきた話が話しなのでこういう作品を書くことは少ないのですが、それでも人間ドラマ全開の作品はかなり好きな部類に入ります。(まあ、ちょっち趣味が入っていますけどね。)

 とにかく、ほんの少し手直ししただけなので文字の間違いなどは代えておりません、はい。

  

おまけ

揚村 甜記劇場IF

この作品は揚村 甜記の過去に書いた作品にIFを加えた作品です。

結局は内輪ネタなので呼んだ作品ぐらいしか分かりませんでしょうけど(ようは自己満足です)

 

銀河鉄道と(以下略)の最後のシーンのIF

暗転

波の音

夜の海

沢見が釣道具もなしに天体観測をしている。

きているのは黒い服

 

沢見 ……ほし、きれいだな

 

愁崎が入っているくる。

手にはコーヒー二本

やはりきているのは黒い服

 

愁崎 やっぱここか、ショパンニ

沢見 ……愁崎か

愁崎 おう、元気か

沢見 ……元気なわけない

愁崎 だろうな……なんかあっというまだったもんな

沢見 ああ、あっというますぎて何もできなかった気がする

愁崎 だよな…まさか大宮さんが、な

沢見 ああ大宮さんが、な

 

そこに加村が入ってくる

 

加村 何やっているんですか。さあ行きましょ。

愁崎 そうだな、行くぞショパンニ

沢見 ああ、そうだな。行くか

 

三人はける

 

感想 「大宮さん」ごめん・・・・・・